組織が取り組むべきインクルージョン推進

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     前回の記事から、組織の活性化においてのインクルージョン推進の重要性についてお話しています。前回は、インクルージョン推進にあたって、社員一人ひとりが何に気を付けるとよいかをご紹介いたしました。今回は、組織がなにをポイントに取り組むとよいのか、社員個人にどういう視点を持つとよいかを見ていきます。

目次

  1. 1.インクルージョン推進が求められるようになった背景
  2. 2.企業がインクルージョンを導入するには?
  3. 3.組織と個人それぞれで気を付けること
  4. 4.まとめ

1.インクルージョン推進が求められるようになった背景

前回も述べた通り、組織内でインクルージョンが推進されていると、働く社員は「会社に大切にしてもらっている」という感覚が沸き、会社に対する安心感や会社との繋がりを深く感じられるでしょう。

     企業でのインクルージョン推進が求められるようになった背景には、次のようなことが考えられます。

心理的安全性の向上
     終身雇用の崩壊や働き方改革、after/withコロナなどを背景に、人々の働き方が多様化しています。雇用形態によって先入観をもたれたり、勤務時間や勤務場所によって対応を変えられたりすることは、社員にとって居心地のよいものではありません。社員がストレスなく働ける環境にすることは、企業にとって当たり前になってきています。

女性の活躍推進
     2022年に「働きたい女性が個性と能力を十分に発揮できる社会」の実現を目的に、女性活躍推進法が改定されました。そのためには、育児などを理由にした離職の防止や、家庭と仕事の役割に対する固定観念の払拭など、組織内でも工夫した取り組みが必要です。

少子高齢化による労働人口の減少
     少子高齢化に伴い、労働人口(15歳以上人口のうち就業者と失業者を合わせた人口)は減少を続けています。人材の獲得競争が激化する中、労働力の確保は企業にとって大きな課題となります。採用においてアドバンテージをつけるためにも、個性や能力を発揮できる環境を整備した上で、それを対外的に発信していくことが求められます。

人材のグローバル化
     日本企業の海外進出が進み、海外顧客の価値観やニーズにも対応すべく、海外の言語や文化に馴染みのあるグローバル人材を採用する企業が増えています。外国人を雇用するにあたり、日本人とは違った慣習や価値観を尊重し、活かしていける体制づくりが重要です。

2.企業がインクルージョンを導入するには?

     それでは、企業がインクルージョンを導入するには、なにを、また、どういったことをポイントにして進めていくとよいのでしょうか。まずは、インクルージョン推進を積極的に行なっている企業の事例を見ていきます。

株式会社JSOL
     お客様先へ常駐して働く社員にとっては、所属する企業との距離ができてしまい、孤立感を感じてしまうことがあります。同社では、従来から行われていた自主活動の取り組みを「JSOLキャンパス」として仕組み化しました。社員がアイデアを出し合ってイベントや勉強会を企画し、実施していく取り組みです。中には、社員だけの活動に留まらず、社会貢献活動として「こどもIT体験」、「児童養護施設からの自立支援」、「障害者スポーツ支援」などに取り組む社員もおり、職場の活性化や社員の主体性を育むことに繋がっています。

株式会社丸井グループ
     同社は、バブル崩壊以降の業績悪化を契機に、同社の精神である「お客様との共創」に立ち返り、ダイバーシティの推進に踏み切りました。「おじさん」が集まって毎晩遅くまで行っていた会議が見直され、無駄な残業の排除や、重要な会議やプロジェクトに女性社員や若手社員が参加することなどが決まりました。
     そして、「個人の中の多様性」「男女の多様性」「年代の多様性」と3つのテーマを掲げ、各テーマに沿った取り組みをスタートしたことで、一人ひとりが主体性を持って意見を発信するようになりました。幹部層にはなかった若手の前向きな意見や、性別や年代問わず多様な観点からのアイデアが出ることによって、組織全体が活性化されたようです。

     では、実際にインクルージョンを導入するには、どういったことに注意して推進していけばよいのでしょうか。ポイントを絞って見ていきます。

①自社の状況を把握する
     まずは、自社の採用状況や女性比率など客観的データのほか、社員がスキルを十分に発揮できているかどうかを調査します。インクルージョン推進に関連するヒアリングやアンケートを行い、現在の状況を把握することで、効果的な打ち手を考えることができます。

②ゴールイメージを決める
     自社の現状から、何が課題でインクルージョン推進を行うのか、「多様な人々がお互いに個性や価値観、考え方を認め合い、一体感を持っている状態」とはなんのことを指すか、どういった状態になったら達成したことになるのかをあらかじめ決めておきます。そうすることで、社内で共通の認識を持つことで同じゴールに向かうことができ、目的達成の可能性が高まります。

③具体的な行動に落とし込み、進捗を定期的に振り返る
     現状とゴールイメージを踏まえ、そのギャップを埋めるための具体的な行動へ落とし込みましょう。目標は目に見えるように数値で設定し、進捗状況がわかるようにします。そして、その進捗状況を定期的に確認し、正しい施策ができているか振り返りましょう。

3.組織と個人それぞれで気を付けること

     現在は、性別、年代、経験、国籍、ライフスタイル、価値観などが多様化する中で、インクルージョン推進をしていかなければなりません。そのためには、社員個人と組織とで、気を付けることには違いがあると考えられます。

     まず、社員個人で気を付けることは、一緒に働く人々のライフスタイルや価値観を理解し、尊重することだと考えます。宗教や家庭環境などは多様で、中にはやむを得ない選択をした人がいる可能性もあります。そのほかにも、雇用形態が違ったり、組織内での役割が見えにくかったりすると、その人の仕事内容や価値観が理解できないこともあるかもしれません。インクルージョン推進をする上では、相手のことを固定観念で一方的に判断せずに、社員それぞれの個性があることを認識することが大切です。
     次に、組織として気を付けることは、心理的安全性を担保すること、そして社員の希望や考えをキャッチすることだと考えます。例えば、幹部だけで会議を行い、幹部だけで意思決定をし続けていると、働く社員の意見が反映されず、的外れな選択をしてしまうことがあるかもしれません。次第に社員との距離が開いていき、「自分が言っても仕方がない」という無力感を醸成されてしまいます。
     組織では当たり前だと思っていたことに対して、違った観点の意見があることによって、新しい発見が生まれます。さまざまなバックグラウンドをもつ社員を受け入れられても、社員の考えを取り入れられなければインクルージョンは成立しません。組織や業界内だけでの固定観念で選択をせず、一人ひとり違った環境だからこその発想や知識があると認識することが重要です。

4.まとめ

     個人と組織双方の目線で取り組みを継続し、改善ができれば、インクルージョンが達成できるのではないでしょうか。働く社員の意見が反映されることによって、組織が活性化され、さらに社員は意見を言いやすくなるという循環が生まれます。こうした好循環を生み出せれば、組織へのリターンも大きくなることが期待できます。インクルージョン推進について、まずは、自社の現状把握から歩みを進めてみてはいかがでしょうか。


執筆者
小河原 尚代
株式会社Dirbato(ディルバート)
コンサルティンググループ パートナー

大学卒業後、大手SIerに入社。その後、日系総合コンサルティングファーム、外資系金融企業に参画。DX推進、プロジェクトマネジメントを得意テーマとし、DX推進の一環で、IT組織変更も多く支援実績を持つ。組織改革やシンプル化・自動化といった業務改革のマネジメント経験を豊富に有する。クロスボーダーな課題解決が求められるグローバルプロジェクトの責任者も歴任。2020年4月1日株式会社Dirbatoに参画。

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