多くの企業で、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの考えから、様々な取り組みが推進されてきております。企業が取り組みを行う上では、多様性・公平性の意味を持つダイバーシティ・エクイティの上に、インクルージョンの考えが欠かせません。 今回は、インクルージョンとは何か?インクルージョンがなぜ重要なのか?といったことについて、改めてご紹介していきます。
1.インクルージョンとは
インクルージョンとは直訳すると、包括や一体性の意味を持ちます。 1970年代、ヨーロッパで移民の増加などによる産業構造の変化から、若者の失業や貧困が問題視されるようになりました。こうした状況は「ソーシャル・エクスクルージョン」と呼ばれ、社会課題として注目されていました。そして、その解決策として生まれたのが「ソーシャル・インクルージョン」という考えです。 その後、1980年代にはアメリカでもインクルージョンが用いられるようになりました。障がいの有無や家庭の貧富の差に捉われず、公平な教育を行うことを「インクルーシブ教育」という言葉で示すようになりました。 日本でも「インクルーシブ教育」は受け入れられ、障がいの有無にかかわらず教育の機会が与えられ、個人に合った教育を受けられる仕組みを整えることをそう呼ぶようになりました。 『基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合には、それぞれの子どもが、授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な視点であり、そのための環境整備が必要である。』 のちに、インクルージョンという言葉はビジネスの場でも用いられるようになりました。ビジネスシーンでは、性別、国籍、障がい、育児や介護など、多様なバックグラウンドを持つ社員がお互いを認め、一体感をもてることを意味しています。
2.ダイバーシティとの違いは?
インクルージョンはダイバーシティと一緒に利用されることが多いですが、そこにはどういった違いや関係性があるのかを見ていきます。 ダイバーシティは、性別や年齢、国籍など、様々な違いを持つ人材を受け入れるといった考え方を意味します。ビジネスシーンで活用される際には、それに加えて、育児や介護で働く時間を調整したい人、障がいがあり働ける場所が限られている人など、企業内に多様な人材が所属していることを指しています。 しかし、様々なバックグラウンドを持つ方々を採用したのにも拘わらず、スキルを活かせない環境ですと意味がありません。そこで、社員同士が個性を認め合い、能力を発揮して長く働き続けてもらうためには、インクルージョンという概念が必要になります。 例えば、働きながら子育てをする社員のお子さんが突然熱を出したときに、リモートワークへの切り替えを言い出しにくかったり、休みを取りにくかったりする環境ですと、インクルージョンが成立していません。お互いを尊重し合い、補い合うことで能力を発揮していけるというのがインクルージョンの考え方です。つまり、多様なバックグラウンドをもつ人々が、最大限能力を発揮していくためには、ダイバーシティとインクルージョンはワンセットで考えることが必要なのです。
3.インクルージョンはなぜ重要か?
それでは、企業がインクルージョンを実践するにあたってどのようなメリットがあるのかを見ていきます。 心理的安全性の向上 介護や育児、障がいなどを理由に働ける時間や場所が限られている方は、終業環境の整備ができることによって、退職という選択をせずに働き続けることが可能です。多様な人材が対等に業務を行えることによって、様々な視点でのアイデアが出て、意見交換が活発になります。 社員のエンゲージメント向上 個性を尊重し活かすことによって、「職場で活躍できている」と実感ができます。そうした環境を企業が提供することで、仕事や会社に誇りを持つことができ、エンゲージメントも向上していきます。 多様な人材の獲得 人材の流動化が進む中で、それに合わせて人材獲得の競争が激化しております。多様性を活かすことのできている環境は対外的なイメージが向上するため、人材採用の際にも大きなアドバンテージになると考えられます。 周りを受け入れよう、認め合おうと突然言われても、中には受け入れることがすぐには難しい人もいるかと思います。実際に社内でインクルージョンを推進するには、従業員一人ひとりが当事者だと自覚することが必要です。 自分と働き方や文化が違った場合、「あの人より自分の方が頑張っている」「自分とは考え方が違う」などという固定観念を持ってしまい、その態度が自然と言動に表れてしまうことがあります。誰が優れているか、誰の考えが正しいかどうかではなく、まずはコミュニケーションを図り、相手を知る姿勢を示すことが必要です。 社内のインクルージョンの推進は、一人ひとりが個人でできることから行動に移していけば、少しずつ体現できると考えます。