DEIを推進する上で、介護を理由にした離職のない組織づくりは不可欠です。前回の記事では、介護保険制度や介護が発生した際の対応方法など、制度面についてご紹介しました。今回は、企業内にフォーカスし、実際に働きながら介護を担う方の考えや企業のもつ課題などを見ていきます。
1.介護による離職者
総務省の統計によると、働きながら介護をする人は、2018年時点で340万人を越えています。また、高齢化によって介護が必要な高齢者が増加し、介護を担う人口も増えていくことが予想されます。
下記の図は、介護を担う雇用者の年代別の割合です。40代~50代が大半を占め、企業内でスキルやノウハウを身に着けた、管理職に就いている方が多い年代だと考えられます。管理職の方の多くが仕事と介護の両立に迫られているかもしれません。
介護を理由に離職する人は年間10万人に上り、男女別に見ると、女性の離職・転職者数が全体の7割を超えています。女性の割合が多い理由の例として下記が挙げられるようです。
●夫婦間でみた場合、男性が家計の主な担い手になっている場合が多く、収入の少ない女性が介護を担うケースが多いから
●夫の親の面倒を見るのは嫁の役目だという価値観がまだ根強いから
こういった理由から、女性自身が介護は自分の役割だと考えになってしまい、介護を理由に退職・転職をする女性が多くなる傾向にあるようです。
介護離職の理由として、『仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため』が6割を超えています。仕事と介護を両立する上で、職場に課題が存在しているようです。
2.両立支援に関する企業の課題
それでは、企業内にはどういった課題があるかを考えていきます。
下記の調査によると、実際に介護が発生した際、相談した相手として「勤務先」と答えた人はわずか10%でした。
要介護者が増加する一方で生産年齢人口は減少しており、一人の介護への負担が大きくなっているかもしれません。
しかし、「上司や同僚に介護について知られることの抵抗感」に関する結果では、約7割の人が会社に知られることに抵抗感はないと回答しています。抵抗感がないにも関わらず、勤務先へ相談をしないのはどうしてなのでしょうか。
「勤務先の両立支援制度を利用しない理由」のデータから見えてくることがありました。
一番多かった回答が「介護に係る両立支援制度がない」で、次いで「自分の仕事を代わってくれる人がいないため」が多いという結果でした。
制度や仕組みが整っていないことから、勤務先へ相談することの有効性が感じられていないと考えられます。従業員のこうした実態の把握がされていないと、企業内での環境整備が進まず、勤務先との働き方などの話し合いが行われぬまま退職へと繋がってしまうのではないでしょうか。
3.企業ごとの介護制度の取組
①EY Japan株式会社
同社は育児に関してはある程度制度が整っておりますが、さらなる制度の拡充を考え、介護と仕事の両立にも注力しています。外部講師を招いた介護セミナーの実施や40歳になった際に制度について理解してもらうためのダイレクトメールの送付、家族の看護に使える休暇&中抜け制度の整備の他、介護が必要な親の家等での在宅ワークを可能にしたり、地元に戻って介護に備えたいといった要望を叶えるために、希望者の引越し代を会社が負担して移住を支援するプログラムを試験的に開始したりしています。
②花王株式会社
社内外の支援情報を掲載した両立支援ガイドブックの配布や社内向けメールマガジンの配信、外部講師によるセミナー等の、社員に向けた情報発信のみならず、介護相談を受けた際に的確なアドバイスができるよう人事に向けた対応マニュアルの提供も行なっております。また、介護との両立について相談する際の社内外の明確な窓口を設け、相談体制の充実を計っています。アンケートとヒアリングで実態把握を行なった上で取り組みを行なっており、説得力を持って進められているようです。
③株式会社野村総合研究所
育児・介護休業法に基づいた制度はもちろん、より柔軟な勤務体系で介護との両立ができる仕組みになっています。介護休業を3回に分割して取得できたり、介護休暇を時間単位で取得できたり、始業・就業時間をずらせたりなど、法律を参考に、社内でカスタマイズをして、こうした制度を活用しやすくなるよう取り組んでいます。
4.まとめ
経験を積んだ従業員が介護を理由に退職してしまうことは企業にとって大きな損失です。介護を理由にした離職の防止や、働きながら介護ができる環境をつくるため、企業での工夫が求められます。
相談できずに退職してしまう従業員が現れないよう、社員の状況把握から始め、介護を行う社員に離職以外の道がないか一緒に考えられるよう予め知識をつけることが必要です。
資料引用元:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」
執筆者
小河原 尚代
株式会社Dirbato(ディルバート)
コンサルティンググループ パートナー
大学卒業後、大手SIerに入社。その後、日系総合コンサルティングファーム、外資系金融企業に参画。DX推進、プロジェクトマネジメントを得意テーマとし、DX推進の一環で、IT組織変更も多く支援実績を持つ。組織改革やシンプル化・自動化といった業務改革のマネジメント経験を豊富に有する。クロスボーダーな課題解決が求められるグローバルプロジェクトの責任者も歴任。2020年4月1日株式会社Dirbatoに参画。