ダイバーシティの真の姿

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内閣府の男女共同参画推進本部では、「男女共同参画社会基本法」の公布・施行日である平成11年6月23日を踏まえ、毎年6月23日から29日までの1週間、「男女共同参画週間」を実施しています。今回は、D&Iを実現するための一歩として、どのようなことに取り組んでいくと良いかと紹介します。

以前に『取り組み迫られるダイバーシティ経営』という記事を挙げさせていただきました。
女性就業率と出生率の低い日本において、国内企業がダイバーシティを重んじることは最も重要な要素の一つであり、同質性から多様性への変容を頭では理解しているけれど「腹落ち」できていない企業が多いのも実態ではないでしょうか。

目次

  1. 1.“ダイバーシティ経営"とは
  2. 2.個人の持つスキルや価値観、経験の多様性を認めるためのインクルージョン
  3. 3.ダイバーシティの実現に向けたアプローチ
  4. 4.まとめ

1.“ダイバーシティ経営"とは

ダイバーシティの本当の価値は、性別や国籍、年齢といったわかりやすい属性の話ではなく、いかに視点・経験が多様かという点にあります。今までの成功体験や固定概念、無意識の中で我々が持っている前提条件に対して、異なる意見を言える視点です。この視点が意思決定の場にも取り込まれることで、不可能だと思われていた方法にも可能性が見えてきます。
視点の多様性は、多くの人が揃って生まれるものではなく、自分自身の中にも多様性を見つけ、多様性を育てていくことできます。
茂木健一郎さんは『やり抜く脳の鍛え方』の中で、『多様性というのは大人になってからでも十分に育むことは可能です。たとえば休日に、いままで経験のないチャレンジをしてみることは効果があるでしょう。仕事の技術を向上させるために、ただただ休日返上で業務にあたるという考え方を変えて、ダイビングで海の探索にチャレンジしたり、また行先を決めずに電車に乗ってみることなどはいかがでしょうか? 脳はいままでに経験のないサプライズに出合った時、活発な活動を始めます』と述べています。
思考のダイバーシティによって売上・利益も個人の幸福度も上がると言われています。
多様な属性の人材を採用し、文化を醸成していくには地道な努力と時間を要しますが、価値が労働力からクリエイティビティにシフトしている昨今、自分自身の多様性を育むような機会(制度)を設けて、さまざまなことができるようなチャンスを増やすことはすぐに開始できます。制度を作り、利用してもらい、やりがいを感じてもらい、自分自身の多様性が生み出しやすい環境が作られてくると、多様性を認める文化も醸成しやすくなるのではないでしょうか。

2.個人の持つスキルや価値観、経験の多様性を認めるためのインクルージョン

固定概念を変えていくには、自分自身では得られない、または得られにくいバックグラウンドやスキルといった価値観の多様性を認めることも大切ですが、これは「ダイバーシティをインクルージョンできている状態」と言えます。
インクルージョンができている状態とは、その人のありのままの感性や視点を受け入れた状態で、意思決定を滑らかにできることを言います。
この状態になるまで、異なる価値観を持つ方の発言は自身にとって居心地が悪いと感じます。
ダイバーシティをあきらめたり、失敗したりした企業の起因は、この居心地の悪さにあるかもしれません。それでは、居心地の悪い状態から脱出するにはどうしたらよいでしょうか。
まずは、経営層が多様性に対してコミットし、各自の心理的安全性を確保することです。
「これは間違っている」ということは、誰でも勇気がいることですが、社員の率直な意見に対して経営層が真摯に対応する姿勢が、信頼関係を生み出し、心理的な安全を感じてもらえるようになります。
次に、評価システム作りです。異能な人の採用や、彼/彼女等のパフォーマンスを評価する仕組みが、個々人の心理的安全性を生み出すだけでなく、モチベーションの維持や会社全体の受容性の向上を促します。
最後に、地道な活動です。インクルージョンが浸透すれば効率性や組織の生産性を上げることができると言われているため、一気に最終段階を目指してしまいがちですが、インクルージョンができている状態に達する過程は山登りと似ています。
例えば、登山で急激に高度を上げると身体への負担が大きくなりますが、これは会社に多様性という概念と関連制度を取り込んだものの、社員が理解できずに負担と感じることと似ていて、ダイバーシティに取り組む背景を丁寧に説明する必要があります。
また、登山中は体の状態を見ながら酸欠や脱水を防ぐ対策を行いますが、ダイバーシティも推進する際に生じた多くの摩擦を見ながら、対策を講じていきます。
経験したことのない対策に取り組むので時間はかかりますが、効率性だけを意識し、決まりきった対応を行わないことで、会社毎に最適な“インクルージョンできている状態”を生み出すことができます。

3.ダイバーシティの実現に向けたアプローチ

ダイバーシティを推進するために「混ぜる」アプローチが大切となります。専門性を高めるために、機能別組織や事業別組織体系を取る企業もありますが、最近は、敢えてハイブリッド組織を組成したり、組織横断のプロジェクトを発足したりして、今までと異なる考え方に触れる機会を設ける会社も増えています。
ここで大切なのは、「自分のやり方が正しい」と他者に押し付けないことです。
新しい個性との融合を楽しむことができるようになれば、ダイバーシティのインクルージョンは飛躍的に進んでいきます。もちろん、初対面の方と知り合うことが苦手な方もいらっしゃいますので、個々が心地よいと感じる距離感で、お互いの個性を知ることができればよいかと思います。
もう一つ大切なアプローチは、自分を知ってもらうためのほんの少しの努力をすることです。
一緒に仕事している方でも、どのような家族構成なのか、どのような考えの持ち主なのか、何を大切に思っているのか、知っているようで知らないことが多々あります。すべてをオープンにする必要はありませんが、相手のことを知ると配慮の仕方が変わってくるように、相手に自分のことを知って欲しいという気持ちで自分のことを少し開示すると、お互いを受け入れる風土醸成が定着していくでしょう。

4.まとめ

ダイバーシティに取り組む企業において、「地道」、「泥臭い」、「繰り返し」という言葉で説明する企業が増えてきたように思います。大きな結果を得るまでには長い時間を要すること、不断の努力が求められることを、経験から集約した言葉で表現してくださっているように感じます。弊社も、ダイバーシティに取り組み始めて1年が経過しました。
やりたいこと、やらなければならないことが多い状況ですが、一歩ずつ着実に“インクルージョンできている状態”となるよう、邁進してまいります。

執筆者
小河原 尚代
株式会社Dirbato(ディルバート)
コンサルティンググループ パートナー

大学卒業後、大手SIerに入社。その後、日系総合コンサルティングファーム、外資系金融企業に参画。DX推進、プロジェクトマネジメントを得意テーマとし、DX推進の一環で、IT組織変更も多く支援実績を持つ。組織改革やシンプル化・自動化といった業務改革のマネジメント経験を豊富に有する。クロスボーダーな課題解決が求められるグローバルプロジェクトの責任者も歴任。2020年4月1日株式会社Dirbatoに参画。

参考文献

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