ジェンダー平等 日本の現在地

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東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が発した女性蔑視と取れる発言は、海外メディアでも取り上げられるなど、日本社会におけるD&Iの遅れを国際社会に印象づけてしまいました。
今回は、ジェンダー平等に関する国際指標を紹介しながら、日本のD&I環境の現況について概観していきたいと思います。

目次

  1. 1.国際指標でみる日本のジェンダー平等
  2. 2.隣国の優等生 台湾
  3. 3.遅れをとる日本のジェンダー平等
  4. 4.ジェンダー平等を推し進めるために
  5. 5.まとめ

1.国際指標でみる日本のジェンダー平等

国連開発計画(UNDP)では、毎年「人間開発報告書」を公表し、この中で各国の男女格差を示す指標を算出しています。
その指標のひとつに、「ジェンダー不平等指数(Gender Inequality Index)」があります。
これは、妊産婦死亡率、国会議員の女性割合、中等教育以上の教育を受けた人の男女別の割合などを基に算出されます。
さて、このジェンダー不平等指数での日本の順位ですが、2019 年に実施された調査によると、指数算出対象 162 カ国中 24 位となっています。日本では、女性の国会議員は全体の14.5% 、また女性の労働市場参加率は男性の71.3%に対し、52.7% にとどまっています。
なお、ベスト3を見ていくと、1位はスイス、2位はデンマーク、3位はスウェーデンとなっています。
アジアでは韓国の11位が最も高い順位となっています。
また、世界経済フォーラム(World Economic Forum)では毎年「Global Gender Gap Report 」を公表し、この中で各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index)を算出しています。
この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示しています。2019年12月に公表された「Global Gender Gap Report 2020」では、2020年の日本の総合スコアは0.652、順位は153か国中121位でした。
同レポートでは、「日本の男女格差は先進国の中で突出して大きく、この1年間で拡大している。」としたうえで、日本について次のように紹介しています。

“(日本の)今年のジェンダー・ギャップ指数は、世界153ヵ国中121位で、2018年に比べて1%ポイント減少し、11ヵ国順位を下げた。実際、先進国の中ではイタリア (117位) 、韓国 (127位) に次いで3位の格差だ。女性が上級職や指導職に就く割合は15%に過ぎず (これは131位)、その所得は男性の半分に過ぎない (108位)。経済分野におけるジェンダー・ギャップの縮小は、政治分野の拡大によって相殺された。日本の国会議員の女性の割合は10%で、世界最低 (135位) の一つで、先進国平均を20%下回っている。しかも、18人の内閣に女性は一人しかいない。これは、約5% (139番目) のレートになり、ピア(高所得)の平均を26%下回ります。最後に、調査対象国の半数以上と同様に、日本には過去50年間、女性の国家元首がいない。”

なお、こちらもベスト3を見ていくと、1位はアイスランド、2位はノルウェー、3位はフィンランドとなっています。
アジアではフィリピンの16位が最も高い順位となっています。

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女共同参画局「世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2020」を公表」より

2.隣国の優等生 台湾

これまで紹介してきた国際指標では、北欧諸国が上位を占めていましたが、アジアでジェンダー平等の取り組みが進んでいるのが台湾です。台湾は国連に加盟していないため、UNDPの調査対象ではないものの、台湾政府が独自に各種指標をもとに「ジェンダー不平等指数(Gender Inequality Index)」を算出したところ、世界で第9位、アジアでは1位という結果が出ています。

細かく内容を見ますと、台湾での女性の国会議員は2018年には38.7%となっています。台湾では比例代表選挙で獲得した議席のうち、50%は女性に充てなければならないという、クオータ制度が導入されており、女性の政治進出を後押ししているようです。
台湾政府のトップが蔡英文総統は、台湾における女性の政治進出の象徴ともいえるでしょうか。また、2018年の台湾の平均男女賃金格差は14.6%で、日本 (32.3%) 、韓国 (32.2%) 、米国 (18.9%) より低くなっています。他方、女性の労働市場参加率は51.1%で、日本よりやや低くなっているようです。

3.遅れをとる日本のジェンダー平等

本連載でも取り上げたとおり、日本でも男女雇用機会均等法や女性活躍推進法など、制度面の整備は進められてきました(詳細は、2020/09/27の「働く女性、躍進までの歴史」をご覧ください。)。
たとえば女性の就業率について見てみると、男女雇用機会均等法が施行された1986年には53.1%でしたが、30年後の2016年には66.0%とおよそ13%上昇しているように、これらの取り組みは一定の効果を上げてきたといえます。他方で、国際比較の中でどのように位置づけられるのか、前述のジェンダー・ギャップ指数の日本の順位の変遷を参考に見てみたいと思います。これによりますと、2006年の日本のジェンダー・ギャップ指数は80位でしたが、その後状況は悪化傾向をたどり、先に述べた通り2019年には過去最低の121位となりました。
日本は制度面の整備などを進めてきたものの、そのスピードは世界に後れをとっている、という見方ができそうです

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日本BPW連合会ウェブサイトより

なぜ日本のジェンダー平等に関する取組は進まないのでしょうか。ここでは制度と意識の2つの側面から原因を探りたいと思います。
まず制度についてみてみますと、前述のように法整備は進めてきたものの、諸外国と比べると足りていないということが挙げられます。
たとえば女性の政治参画については、多くの国で、議員候補者や議席の一定割合を男女に割り当てる制度が導入されていますが、日本では未導入です。
また、企業活動においても、ノルウェーやフランスなど欧州を中心に、女性役員の登用を義務化する動きがみられます。
ノルウェーでは、2005年、公開株式会社、国有企業等について男性と女性それぞれが役員の40%以上とならなければならないとする法律が発行しましたが、2005年に12%だったノルウェーの女性役員比率は、4年後の2009年には40%にまで急上昇し、以降2019年までほぼその水準で安定しています。このことからも、制度面の施策がジェンダー平等に重要な影響を与えることがわかります。

つづいて意識の面を見ていきます。日本政府の調査によりますと、「男の人は外で働き、女の人は家を守るべき」という質問に対する各国の反応を比べたデータをみますと(図表参照)、男性のみならず、女性もまた、男性は外で働き、女性は家を守るべきと考えている人の割合が日本は突出して高いことがうかがえます。
このあたりの意識は、以前取り上げたアンコンシャス・バイアスがジェンダー平等を阻んでいると考えられます。

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Human Capital ONLINE 2022年2月12日「「誰もが階段を上る」キャリアが女性の社会進出を拒んでいる」より抜粋(出所:厚生労働省 雇用均等基本調査)

4.ジェンダー平等を推し進めるために

ジェンダー平等には、制度面の拡充に加えて、アンコンシャス・バイアスが男女の役割観に結びついていないか、各自が自分自身の意識と改めて向き合う必要があるかもしれません。また、これまでは女性にフォーカスが当たることのあった様々な施策ですが、男性の行動変容を促す施策を強化していくこともまた重要です。
先に挙げた報告では、これまでの日本の労働慣行では、女性が家事等の家庭責任を一手に引き受ける代わりに、男性は転勤や残業を前提とした「稼ぎ主」となることが求められてきており、このような働き方をベースとした競争環境では、いくら採用や昇進における機会を平等にしても、「家事等の家庭責任を担わなければならない者」は自ずと不利な扱いを受けてしまうので、女性の活躍を推進していくためにも、男性の家事等への参加を促していくためにも、この「男性稼ぎ主社会」は問い直していくことが必要である、と指摘されています。

家事等の家庭での活動について、男性が今よりもより積極的な役割を果たすようにしていくことで、サラリーマンの夫と専業主婦の妻を前提にした制度や仕組み(昭和モデル)からの脱却を図ることが、ジェンダー平等の推進には必要なのではないでしょうか。

5.まとめ

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が発した女性蔑視に対して、「#わきまえない女」というハッシュタグがTwitterで広まりました。年長の人も反応してシェアしたのは、「こんなことは私たちの世代で終わりにしたい」という思いがあったのではないでしょうか。
「沈黙は同意、笑いは共犯」と、多くの方が傍観者にならずに発信されていることも大きな変化と感じました。既存の仕組みを変えていくのは時間がかかりますが、少しずつ変化は起きています。
よりD&Iを理解し、行動変容を促していけるよう、我々も継続して情報発信していきたいと思います。

執筆者
小河原 尚代
株式会社Dirbato(ディルバート)
コンサルティンググループ パートナー

大学卒業後、大手SIerに入社。その後、日系総合コンサルティングファーム、外資系金融企業に参画。DX推進、プロジェクトマネジメントを得意テーマとし、DX推進の一環で、IT組織変更も多く支援実績を持つ。組織改革やシンプル化・自動化といった業務改革のマネジメント経験を豊富に有する。クロスボーダーな課題解決が求められるグローバルプロジェクトの責任者も歴任。2020年4月1日株式会社Dirbatoに参画。

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