ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の変化

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米国企業の人材活用は、D&I(Diversity and Inclusion)からDEI(Diversity, Equity and Inclusion)へと変わってきています。
今回は、新たに加わったEquity(公平性)という視点の説明と、日本イーライリリー株式会社が様々な企業・団体、自治体、専門家に呼び掛けて共同で立ち上げた、「“みえない多様性”に優しい職場づくりプロジェクト」について、ご紹介したいと思います。

目次

  1. 1.D&IからDEIへ
  2. 2.みえない多様性

1.D&IからDEIへ

米国企業では、ダイバーシティ(多様性)推進にとどまらず、インクルージョン(包括性)に重点を置くことが主流ですが、近年、シリコンバレーを中心とした米国企業では、“Equity(公平性)”を加えたDEI(Diversity, Equity and Inclusion)を掲げて、多様な人材を包括できる組織づくりだけでなく、公平性の担保までを目指しています。

Equityは、「公正」を指す言葉であり、昇進、賃金などの公平性を目指すものです。よく似た言葉にEquality(=平等)があり、両者は似ていますが、意味しているところが違います。
Equalityは、「個人的な差は鑑みずに、みんなに平等のリソースを分け与える」という考え方で、Equityは「個人差をきちんと考慮して、それぞれに見合ったリソースの配分をする」という考え方です。

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それでは、なぜ企業は公平性の視点を追加するようになったのでしょうか。

一つ目考えられるのが自動化の促進によって職業を替える方が増えることです。McKinsey&Companyの調査*1によると、自動化によって、2030年までに1億6000万人の女性が転職する必要があると推定しており、これほど大規模な労働力転換の影響は無視できません。
日本は、IMFの試算において、女性が職を失う可能性が男性よりも3.4倍高いことが示されています。
女性に限らず、労働人口が減少をたどる現状において、労働力の確保は企業の成長の大きな要素となる可能性があります。
キャリアチェンジされた方に対するフォローアップは、公平性の考え方を取り入れた施策といえるでしょう。

二つ目に考えられるのが、社員の労働時間と家事に携わる時間の違いです。
母親は父親よりも家庭で多くの負担を担う傾向にありますが、新型コロナ(COVID-19)によって家事に携わる時間が更に増えたことを機に、辞職を検討する方が増えているそうです。
同じくMcKinsey&Companyの洞察によると、2025年までに男女格差を埋める方法を見つけることができれば、GDPを12兆ドル追加できる試算があり、組織作りに公平性の観点を取り入れることは、女性に働き続けるモチベーションを与えるきっかけになると考えられます。

既にDEIを導入している米国企業の一つ、ドロップボックス社では評価にあたって、同じ階層の社員をどう評価したかについて、マネジャーが集まってピアレビューを行い、男女格差がないかをチェックします。
これら評価者の取り組みは人事部が評価し、マネジャー査定に反映するそうです。
ドロップボックス社に限らず、同じ仕事なら同じ賃金となっているか、性別、人種などで格差が生じていないかを毎年確認する企業も増えています。
エヌビディア社は外部の調査機関に賃金公平性の確認を依頼し、性別、仕事レベル、学歴、業績など75以上の項目を挙げて賃金公平性を測り、4年かけて平等を実現したそうです。

Equity(公平性)を組織に取り込むことは容易ではありません。誰かにとっての公平な対応が、別の誰かにとっては差別的な対応となるためです。各人の状況を継続して正確に見極め、共有して、対応策を検討しなければ、不平不満が溜まる一方となります。
当社も、多様な経験を持った社員が参画していますが、彼らにとって公平性とは何かを考え、活動していきたいと思います。

2. みえない多様性

日本イーライリリー社は2020年11月18日、「みえない多様性」を理解し、より働きやすい職場づくりを目指した啓発ツール「わかりづらい健康課題『みえない多様性』に優しい職場をつくる-Inclusive Workplace Design Toolkit-」を有志企業などと共同で開発したことを発表しました。*2

   

今回開発したツールは、「健康課題に紐づくみえない多様性」を知るためのもので、開発のきっかけとして、「片頭痛や緊張型といった頭痛や腰痛、生理痛などの痛み、そしてさまざまな原因で起こる不調は、時に仕事に支障をきたすことがあります。
しかし、その痛みや不調は他人にみえないことから周囲の人に理解してもらうことが難しく、結果的に一人でそのつらさも抱え、我慢しながら働いている人たちがいます。こうした当事者一人ひとりの状況を「みえない多様性」として捉えられるのではないかと考えました。」と述べられています。

   

多様性(ダイバーシティ)には、「目にみえる多様性」と「みえない多様性」があり、みえない多様性には例えば能力や価値観があると説明しており、同社コーポレート・アフェアーズ本部の山縣実句氏は、症状の可視化が難しく、周りの人から症状や辛さの理解度が低い疾患によって起こる当事者の「不安、支障、働きづらさ」を「みえない多様性」と定義づけました。

   

啓発ツールは日本イーライリリー社、アシックス社、パソナ社など7社のほか、自治体、医療従事者、健康経営専門家による「“みえない多様性”に優しい職場づくりプロジェクト」が開発したものであり、同ツールは発表日当日から日本イーラーリリー社のウェブサイト内で公開されています。

   

ツールは主に、①職場で健康課題に取り組むためのポイント②先進事例の紹介③ワークショップ/付録カードゲーム(ストーリーカード)の三つで構成されています。カードゲームには、「健康理由で午前休をとったのに飲み会に参加している。どんな人なのだろう?」とのシーンカードが含まれている。このカードを活用したディスカッションを通じて、参加者が想像を膨らませ、「頭痛。もしかしたら『頭痛』が関係しているかもしれない。どんな原因なのだろう?」とのリーズンカードから、疾患理解を深めるとともに、職場のみえない多様性を知るきっかけになるよう工夫されています。

   

監修者のひとりである健康経営研究会理事長の岡田邦夫氏(医師)は、「組織の中には、健康課題を抱える当事者が持つ潜在的な能力を生かしきれていない現場が現実問題として存在する」と指摘しており、「働くすべての人にとって働きやすい職場環境が実現すれば、働きがいが出て、従業員満足が高まり、社員の成長を促すことになる。結果として企業の成長にもつながってくるというところは見逃してはいけない」と、みえない多様性を理解することが、結果として社員や企業の生産性向上につながるとの見方を示しました。

   

D&Iは多様性からスタートし、包括性が加わり、公平性も加わるようになりました。また、多様性の捉え方も、みえる多様性・みえない多様性と、多角的な視点で取り組まれるようになっています。これらの施策を学び、社員の意見を取り入れ、施策を継続的して見直していくことが、組織のD&Iをより充実させていく一歩になるでしょう。

執筆者
小河原 尚代
株式会社Dirbato(ディルバート)
コンサルティンググループ パートナー

大学卒業後、大手SIerに入社。その後、日系総合コンサルティングファーム、外資系金融企業に参画。DX推進、プロジェクトマネジメントを得意テーマとし、DX推進の一環で、IT組織変更も多く支援実績を持つ。組織改革やシンプル化・自動化といった業務改革のマネジメント経験を豊富に有する。クロスボーダーな課題解決が求められるグローバルプロジェクトの責任者も歴任。2020年4月1日株式会社Dirbatoに参画。

参考文献

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