ダイバーシティ&インクルージョンの施策の一つとして、女性の活躍推進が挙げられます。
これについては、国も積極的に政策を進めていて、2016年には「女性活躍推進法」が施行されました。
女性がライフステージの変化に直面しても、家庭や育児と両立しながら無理せず仕事を続け、キャリアアップを目指せるよう、企業が積極的に職場環境を整え、社員の意識改革を行うようになってきました。
また、肩書き、性別、国籍、文化、学歴、さまざまなボーダーを超えて、自分の力で「新しい価値」を作り出し、自由に発信し、キャリア自身も自身で創っていく女性達が増加の兆しを見せ始め、近年では起業する女性も増えています。
今回は、女性のキャリア意識が変化した要因や、女性が参画したことによるイノベーションへの影響を説明したいと思います。
1.女性のキャリア意識が変化した要因
A) クリエイティブエコノミーの到来
クリエイティブエコノミーは、イノベーションエコノミーとも言われています。
創造力を発揮して何かを生み出し、それによって経済を成長・回復させていくということです。
クリエイティブな分野としては、手工芸品、芸術などが挙げられますが、人々が自ら培った経験をもとに生み出したものは、非常に価値があるとされています。人間ならではのクリエイティブな側面を発揮して経済を良くしていくことこそ、クリエイティブエコノミーの真骨頂です。AIの活用が進んでいる現代において、AIに代替されない仕事の境目がWork2.0とWork3.0の間と言われています。
Work3.0では、今まで以上に相手のニーズを汲み取り、何をその人にもたらしているのかということを真剣に考える必要があります。
女性は、おもてなし・共感・同感の気持ちが強い傾向にあり、クリエイティブエコノミーの到来が、女性の活躍を後押ししていると言えるでしょう。
B) 商品・サービスの寿命の短命化による新商品・サービスの創出機会の増大
情報・グローバル社会が到来する前は、一億総中流時代であり、大衆受けする画一的なモノが、カイゼンを続けることで人々から支持され続けました。
しかし、情報技術が進化し、グローバル化が進んだことによって、一つのビジネスが世界中に一気に広まり、そしてすぐに飽きられ、変更や革新を迫られるようになり、今や新規事業の創出は、企業の生命線となっています。
mixiが日本初のSNSとして一世風靡したものの、Facebookの台頭により、あっという間に衰退したことをご存知の方も多いでしょう。
新規事業の創出は、「男性社会」なビジネス世界で「マイノリティ」に位置づけられる女性に、クリエイティブを発揮する機会を増やしました。
この動きがプロダクトやプロセスのイノベーションにつながっています。
C)労働人口の減少
生まれてくる子供の数が減少し、労働力の先細りが明白となっています。
女性や高齢者、外国籍の方も戦力として働かざるを得ないという事情が、マイノリティだった女性・高齢者・外国籍の方の仕事へのエンゲージメントを高めています。
D) テクノロジー進化による多様な働き方
新型コロナの感染予防対応とし、益々コミュニケーション手段が多様化し、テレワークが普及してきました。
場所に縛られない働き方は、女性に「働き続ける」という選択肢だけでなく、「どのように働くか」ということを熟慮する機会を増加させました。
E) SNSの普及による個人・世界とのつながりやすさ
InstagramやFacebook、Twitter、noteなどで、自分の作品や考えを発信できる機会が増えました。
また、TIME TICKETやTimebankで、個人のスキルなどを売買できるようになりました。さまざまなオンラインサロンが開設されるようになり、今まで仕事、家庭以外で作りにくかったコミュニティが容易に作れるようになり、自身の不安やビジョンを共有・賛同してもらえる機会が増えました。
このような環境は、さまざまなことにチャレンジするハードルを下げると共に、さまざまな先行事例から自分に合ったキャリアを能動的に活用できるようになります。
F) 人事制度改革の加速
新卒採用方法が多様化するだけでなく、人事制度の改革も加速しています。社会全体としては、労働時間の削減が徐々に進められていますが、企業では、労働時間の短縮措置の導入が進んでいます。
時短勤務だけでなく、フレックスタイム制度など、柔軟に仕事の時間が選択できるようになってきています。
G) 女性の地位向上
平等に働くことを当たり前とする世代が企業内で戦力になっており、女性でも能動的に発信し、主張できる時代になってきました。
女性の地位向上が、限られたロールモデルを追いかけるのではなく、個人が望むキャリアを実現できる機会を増やすことになりました。
2.イノベーションの実例
二つの事例を紹介します。一つ目が日産自動車株式会社の実例です。
内閣府発行の平成30年版交通安全白書によると、女性の運転免許保持者は年々増加傾向にあり全体の45.1%を女性が占めています。
また、車を買う際に女性の意見が尊重されるケースが増えており、車購入の意思決定に女性が関与する割合は全体の6割を占めるという報告もあります。
車を選ぶ女性の視点は、子どもに優しい、使い勝手の良さ、家族で楽しく乗れるかなど、より実生活に寄り添ったものが多いです。
これを受け、日産自動車では、新たな視点を商品開発に取り入れ、競争力のある車を販売するために、計画、設計、製造、販売に至るすべての工程で女性を登用していきました。
この取り組みから生まれたのが当時の新型セレナで、二段階になって小スペースで簡単に開くデュアルバックドアや、子どもを抱っこしていても開けられるハンズフリーオートスライドドアといった、きめ細かいデザインを車に施すことで、2017年1月に前年比の二倍近い売り上げを達成しました。
これらの施策を通して、女性の多様な経験や知見を生かし、これまでとは全く違った視点から市場ニーズに見合う製品を生み出す「プロダクト・イノベーション」を実現したといえます。
さらに、女性がそれぞれの過程に参画することで、各工程に新たな視点が取り入れられ、計画・設計・製造の各工程が見直され、販売現場の対応にも女性ならではの意見が取り入れられた。改良されたプロセスにより作業効率や生産性が上がり「プロセス・イノベーション」も同時に実現しました。
二つ目が清水建設株式会社の実例です。
男性社会が根強く残る建設会社で、女性が現場に入ることで、今まで当たり前だと思っていたことが、そうではないとわかってきたそうです。
例えば、安全帯(高い場所で作業を行う場合に使用する命綱付きベルトのこと)は、安全を確保するための装具として必ず装着するものであるが、「重くて仕事がし難い」という女性社員の指摘によって改良が始まり、非常に軽量で安全性の高い安全帯ができました。
軽量化された安全帯は、男性にとっても使いやすく有効で、男女関係なく利用する人が増え仕事がしやすくなったそうです。
「安全を確保するためだから、安全帯は重くても仕方がない」という概念を、女性をターゲットに開発した新たな装備が打ち破り、男性にもメリットをもたらす利用価値の高い装備として広く展開できました。
初めはマイノリティの人たちのために開発されたものが、幅広く利用され、多様な人々が恩恵を受けることはよくあります。
3.年齢階級別女性労働力率の変化と男女賃金格差
男女雇用機会均等法が1986年に施行されて34年経とうとしています。
年齢階級別女性労働力率は、M字カーブ(30歳前後の結婚や第一子の出産を機に離職される女性が多い)からO字カーブを描くようになり、日本の女性就業率は他国と比較しても遜色ない数字になってきました。
一方で、2019年度の日本女性に支払われる賃金の水準は男性を23.5%下回っており、経済協力開発機構(OECD)加盟国で男女の所得格差は韓国に次いでワースト2です。
それぞれが個性を活かし、多様性を実現するには、まだ課題が多い状況といえます。
次回は、過去の働く女性が、どのような思いを抱えながら働いてきたのか、その思いが社会をどう変えてきたのか、働く女性・躍進の歴史を振り返っていきたいと思います。